先日、鎌倉のシェアリビングスペースNIHO kamakuraで「鎌倉流のリジェネラティブツーリズムを考えよう!」という勉強会が開かれました。行政書士で「鎌倉の空手」を発信している菅倫明さんを中心に、鎌倉観光の課題と未来について熱い議論が交わされました。NIHO kamakuraの高浜さんは冒頭で「今の鎌倉の観光の現状や理想を整理して、多くの人が関われるように共有したい」と、開かれた場づくりの意図を語りました。日々の暮らしの中で感じるオーバーツーリズム問題。その表面的な現象だけでなく、根っこにある構造的な課題に迫りました。「守る」から生まれる「ジレンマ」〜古都保存法って何?〜鎌倉の観光を考えるとき、避けて通れないのが「古都保存法」です。菅さんは地図を広げながら、この法律の影響を説明してくれました。1966年に制定されたこの法律は、鶴岡八幡宮裏山の開発計画などから歴史的な景観を守るために、市民たちが立ち上がって作ったものなんです。「市民の力で『守る』ことを実現した法律なんですよ」と菅さん。ところが、この「守る」ための法律が、今では街の発展や変化を阻んでしまう「ジレンマ」になっていると指摘します。※『鎌倉市における歴史的風土保存の取組み』より引用規制の厳しい「歴史的風致特別保存地区」(円覚寺周辺など紫色のエリア)では、建物の改築はもちろん、5メートル超の樹木の伐採にまで許可が必要。「近くの山も木が倒れてて危ないんだけど…伐採できない。崩れたら災害復旧で治せるけど、そこまで起きないとできないんです」と菅さんは実情を語りました。一方で、規制が緩い商業地域(駅前などの白色エリア)では、マンション建設が進み地価が高騰。鎌倉は「守られるエリア」と「開発が進むエリア」の二極化が進んでいるのです。オーバーツーリズムはなぜ起きる?〜人が集まる仕組み〜そのように鎌倉の混雑問題は、単に人気があるだけではなく、「構造的に生み出されている」側面があります。開発や商業活動ができるエリアが小町通りや駅前などに限られるため、必然的にそこに人や店が集まってしまうのです。さらに「小町通りが熱い!」と外部メディアが取り上げることで、観光客の動きが画一化されています。「結局鎌倉にはお金が落ちない」状況も問題です。参加者の西山さんは「お店が頻繁に入れ替わって、家賃も上がって、東京資本の会社のPRの場所になりやすい」と小町通りの変化を指摘。菅さんによると、相続で地元の人が物件を手放し、高い家賃を払える大手企業だけが入れる状況に。それらの企業は地域に根付かず、PRや採算を見極めて撤退することも多いそうです。「地元の人は小町通りで買い物しないですよね」という西山さんの言葉は、観光地と地域の暮らしの乖離を表しています。行政はなぜ動けない?〜資源不足と複雑な背景〜では、市の行政はどうでしょう?菅さんによれば、市の観光課の職員はわずか6名で頑張っているとのこと。オーバーツーリズム担当は実質1名だけ。年間1600万人もの観光客に対して、あまりにも人手が足りません。予算も津波対策などの防災が優先で、花火大会や観光協会への助成金に使われると、積極的な観光策に回せるお金はほとんどありません。数年ごとの担当者異動も、長期戦略を難しくしています。「行政が動きにくい状況は、ある程度『定数(変えられない要素)』と考えた方がいいかも」という現実的な見方も示されました。希望の光「再生型観光」〜鎌倉らしい新しい観光のカタチ〜こんな難しい状況でも、菅さんが期待を寄せるのが「リジェネラティブ・ツーリズム(再生型観光)」です。これは観光客が単に「消費者」ではなく、地域文化や環境の保全・再生に「参加」し、住民と共に価値を高める「共創者」になる観光スタイル。禅や武道などの文化体験、地域との交流、長期滞在などを通じて、訪れる人が地域のファンになり、何度も訪れたくなる関係を作るのが狙いです。「いかにファンになってもらうか」「何度も来たくなる状態を作らなきゃ」と菅さん。実際に自身が実践する「空手道体験」はその好例です。鎌倉が空手の発展(唐の手から空の手へ)に深く関わっていた歴史は地元でもあまり知られていませんが、海外の空手家には大きな魅力。オーストラリアから多くの空手家を円覚寺に招いた体験は大成功だったそうです。また夜の飲食店不足という課題に対しては、複数の店を巡る「バーホッピングツアー」を大船で実施。「そういう文化があるんだよ」と新しい楽しみ方を発信しています。市民の手で未来を創る〜仲間を増やして動き出そう〜鎌倉の課題解決には、市民の主体的な関わりが不可欠です。ただ現状では、市民の間でも認識の差があります。西山さんが紹介した研究では、観光への満足度は旧鎌倉エリア(不満が多い)と大船などのエリア(比較的満足度が高い)で明確な差があるとのこと。こうした認識の差や構造的問題への理解不足は、地域メディアのとも関連しています。※観光に関する住⺠意識調査 成果報告書より引用「こういった構造的な話はメディアで取り上げないと、普通の人は知ることもできないなと思う。」と高浜さん。深い分析や課題提起をする地域メディアが不足している現状も指摘されました。個人の力だけでは限界があるからこそ「仲間がどんどん増えてほしい」と菅さん。「戦略やメディアが得意な人が協力してくれるといいな」と高浜さんも呼びかけています。多様なスキルを持つ市民が連携すれば、行政や既存の枠組みを動かす力になります。ポジティブな活動や成功例を見える化し、体験提供者同士をつなぎ、SNSなどで発信していく。こうしたボトムアップの動きが鎌倉の未来を創る鍵になりそうです。明日の鎌倉を一緒に創りませんか?今回の勉強会では、オーバーツーリズムが古都保存法、都市構造、行政の限界、メディアの問題など、様々な要因が絡み合った複雑な課題だということが見えてきました。その解決策として注目されるのが「再生型観光」。観光を一過性の「消費」から、地域文化を育む「参加・共創」へと変える試みです。直近はまず、色んな体験型のコンテンツを作って、連携して、いずれ観光客がそれを見つけられるような流れも作りたいなと話しています!次回の作戦会議は5/9(金)の19時から!私も興味ある!という方はぜひ大歓迎です!