「この棚、もうちょっと高さがあればなあ…」「看板のデザイン、なんかバラバラで統一感がない」「配送用の台車、もう少し使いやすくならないかな」そんな「ちょっとした困りごと」を抱えている事業者の方は多いのではないでしょうか。市販品を探してもピタッとくるものがない、DIYで何とかしようと思うけれど安全面が心配、かといって工務店に依頼するほど大掛かりでもない…。そんな時に相談できる人が、鎌倉にいるんです。この道30年のプロダクトデザイナー、仲村拓哉さん9.5th Design(ナインフィフス デザイン)株式会社の代表取締役として、鎌倉を拠点に活動しています。「9.5thって変わった社名ですね」と尋ねると、「デザイン事務所って自分の名前をつけることが多いんですけど、それだとちょっと恥ずかしくて。ちょっとひねって自分の誕生日を数字で読ませるようにしたんです。でもこの名前だと、皆さんに『9月ですから』って説明できて、コミュニケーションのきっかけになるんですよ」と笑顔で答えてくれました。一見気さくなおじさんという印象の仲村さんですが、実は30年にわたってモビリティデザインの最前線で活躍してきた本格派デザイナーなんです。都内の美大を卒業し、新卒でスズキ株式会社に入社し、10年間製品デザインやショーモデルを担当。その後ヤマハ発動機の関連会社エルムデザインに移り、2008年にはイタリアに2年間駐在。2012年からはヤマハ発動機のデザイン本部に転籍してからも、バイク、自転車、車椅子、船、4輪バギーなど様々なモビリティのデザインを手がけてきました。「スカイウェーブというビッグスクーターの全体デザインを一人で担当したこともあります。当時欧州、日本で拡大していたカテゴリ製品で、両方の市場で受け入れられるよう意識してデザインしました。当時は徹夜残業続きの厳しい開発でしたが、トータルで一つの製品を初めてデザインした貴重な経験でした」なぜ大手出身デザイナーが地域の困りごと解決を?そんな仲村さんが2021年に独立し、なぜ地域の小さな困りごと解決に取り組むのでしょうか。「鎌倉に住んで13年になりますが、この街にはすごく可能性を感じているんです」と仲村さんは語ります。「海と山があって古い街並みも残っている歴史ある街で、三方山に囲まれた限定的なエリアがモビリティの実験の場として最適なんです。住民の意識も高く、いろんなことを試してみようという意気込みや問題解決への積極性がある。いろんなことをここでトライすれば、鎌倉発信で日本中に応用できるんじゃないかと思っています。起業される方も多いですしね」一方で、オーバーツーリズムや渋滞課題など、街全体の環境課題も抱えています。「住んでいる者として、特に海洋ゴミ問題や交通問題に対して、デザインの力で何か貢献できないかと考えているんです。この街に限らず日本は圧倒的にデザインの力が足りていないと感じています」3Dプリンターで「ちょっと違う」を解決では、具体的にどんな困りごとを解決できるのでしょうか。仲村さんの強みは、3DプリンターとCADを活用したライトなものづくりです。鎌倉はFab City宣言をしていたり意外とものつくりに親しんでいる方が多い、とはいえ絶対的な製品にする知見は足りていないと思うんです。「昔は絵を描いても形にするのがすごく大変でしたが、今は3Dプリンターがあることで外観だけなら簡単に作れるようになりました。今は多様な製品が世の中にありますが、市販品を探しても『ちょっと違うんだよな』『もっとこうだったらいいのに』ということってありますよね。そういう時に、3DプリンターとCADを使って足りないものを作ったり、既存のものをカスタマイズしたりできるんです」例えば、市販の棚のサイズが微妙に合わない場合は専用パーツを3Dプリンターで作成したり、2つの製品をつなげたい時は中間パーツを設計・製作したり。色が気に入らなければ塗装やカスタマイズで対応することも可能です。「そうすることで愛着も湧くし、無駄な買い物も減る。せっかく買ったのに使えないという問題も解決できます。今の時代はものが溢れているので、既存のものを使ってどうするかという編集能力が重要になっているんです」プロが徹底する安全設計へのこだわりクライアントさん次第で小さなものから大きなものまでつくりますが、DIYとは一線を画すプロとしての安全意識を持っていることが仲村さんの一つの強み、安心材料でもあります。 身体を預けるモーターサイクルなどのデザインでは、安全設計が徹底されています。例えば、オートバイの透明スクリーンは、一定の衝撃が与えられたら外れるよう設計されています。普通はしっかり固定しますが、安全を考慮した設計になっているんです」また、ハンドルのスイッチは素手ではなくグローブをして真冬でも動かせるよう配置、形状を考えるなど、あらゆる使用状況を想定した設計思考が身についています。「安全設計で大事なのは、あらゆる動作を想定してイメージできること。どれだけ想像できるかが重要で、いろんな人の話を聞いたり事象を見て『こういうことあり得るな』と考える。お客さんが怪我したり、自分が作ったもので事故が起きることは絶対にあってはいけませんから」NIHOでの事例仲村さんの仕事は丁寧で多岐にわたるのですが、取引先との契約上具体的事例が言えないものが多く…小さな事例になりますがNIHOで助けてもらったことをご紹介します。小型エアコンが接続できない問題を3Dプリンターで解決「エアコンを買ったけれど、既存の換気ダクトに接続できない」というトラブルが発生しました。市販のエアコンは標準的な設置を前提としているため、特殊な形状のダクトには対応していません。最初はガムテープで無理やり固定するしかなく、見た目も機能性も満足できない状態でした。そこで仲村さんに相談すると、「これ作れるよ。これぐらいならデータ作って3Dプリンターで作れるよ」との提案が。実測して立体データを作成し、3Dプリンターで接続用アダプターを製作してもらいました。最初の試作品は一週間程度で完成しましたが、取り外し時に強度不足で破損。しかし2回目は補強を追加し、剛性を向上させた設計に変更してもらい、しっかりはまり使用できるようになりました。「3Dプリンターを使うことで、試作→テスト→改良のサイクルを短期間・低コストで回せるのが大きなメリットです」と仲村さん。従来では高コストだった一品物の製作を、現実的な価格と時間で実現してくれました。看板照明も空間デザインとの調和を重視看板そのものもデザインもしていただいたのですが、夜間に見えにくいという問題があり、市販の照明器具を購入したものの、黒色のライトがその場の雰囲気に合わないという課題がありました。仲村さんは単に機能を満たすだけでなく、空間全体のデザインとの調和を重視し、壁の色と同じ青色に塗装してくれました。「完全にオリジナルで調色しも良かったのですが、全く同じ色の既製品が見つかったので、それだと将来的にも使えるかなと思って」と、今後の運用にも適した解決策を提供してくれました。ギャラリースペースは過去の経験を活用アート作品を展示するギャラリースペースの整備では、学生時代の額縁屋でのアルバイト経験を活かした専門知識を発揮。ピクチャーレールの設置方法や、作品の掛け替えを考慮したレール設計など、空間をどのように使うかなどの提案で単に壁に作品をかけるだけではない空間が生まれました。「作品を掛け替える可能性を考慮して、様々な場所や数のバリエーションに対応できるレールシステムにしました」という可変性を考慮した設計により、将来の変更や拡張にも対応できる柔軟性を持った仕組みになっています。地域から世界へ、将来への展望地域の小さな困りごと解決から始まった仲村さんの活動ですが、将来的にはより大きな展望も抱いています。「例えば江ノ電さんが取り組んでいる自転車シェアリングは、ある自転車を導入するともっと多様性に富み、地元住民にも喜ばれるものになると思います。ただそこにはアイディアとデザインが不可欠です。江ノ電はブランド力をもっと活用すべきです。これ以上拡張することのできない制限が多い江ノ電沿線地域の移動にもっと積極的にかかわることで、さらなる収益や地域住民へのブランド力向上にデザインは寄与するでしょうし、鎌倉における新しい産業の可能性も発想力のあるデザイン人材が真剣に協議し県や市を動かせれば、観光に頼りがちな鎌倉に地元にお金が落ちない構造を大きく変えていくことができる。デザインはそんな可能性を秘めているのです」俯瞰的な視野でデザインの意義を教えていただきつつ、まずは身近なところから。「モビリティ分野で得た知見を活かして、3Dでプロダクトを提供できるという貴重なスキルを活かして、まずは地域の皆さんの困りごと解決から始めたいと思っています」まずはお気軽にご相談を「市販品だとサイズが合わない」「商品陳列の棚がしっくりこない」「看板のデザインに統一感がない」「配送用の台車が使いにくい」「こんなモノないか?」そんな3次元空間での困りごとがあれば、まずは仲村さんに相談してみてはいかがでしょうか。大手メーカーで培った専門性と地域に根ざした親しみやすさを兼ね備えた、頼りになる「ものづくり相談屋」が、きっと解決策を提案してくれるはずです。「一人じゃなくても、いろんな専門の仲間がいるので、人脈も含めて対応できます。まずはお気軽に声をかけてください」そう語る仲村さんの「ちょっと考えてみるわ」から、あなたの困りごと解決が始まるかも?9.5th Design株式会社 代表取締役 仲村拓哉さんhttps://www.nine5thdesign.com/