「世の中がどんどん変わる時代に、何を学ばせれば良いんでしょう?」12月3日に、鎌倉市教育委員会次長の小原聡真さんを囲んで、教育について市民の皆さんと語り合う第2回がシェアリビングのNIHOで開かれました!前回の第1回では、新しく策定された「教育大綱」という鎌倉市の教育方針を教えてもらいました。「炭火のような学び」「学習者中心の学び」——そんなキーワードのもと、鎌倉市の教育は新たに進み始めています。あれから半年。今回は、理念が実際に現場でどのように実践されているのかを紹介してもらい、参加者からの具体的な質問にも答える会となりました。「探究的な学びって、受験に役立つんですか?」「多様性と言っても、結局は成績がつくんですよね……?」リビングのくつろいだ雰囲気だからできる、教育についての本音の対話をレポートします!教育をとりまく社会の変化「学んでいる間に社会が変わってしまう」小原さんがまず教えてくれたのは、教育を取り巻く社会の状況について。大事なのは、現代社会はかつてない速さで変化しているということでした。AIは今後10年で、人間の知能の10倍を上回ると言われています。人口減少についても、もはや「人口激減」とも言うべき局面に入っていく。そして気候変動による環境の大規模な変化も起きている—— それらが教育現場にどう関係するのでしょうか。「子どもたちが学んだ知識が、社会に出る頃にはもう古くなっている、ということが起きるんです。」「例えば10年前、英語教育は「絶対やらないとやばい」と言われていたものでした。それが今では翻訳AIが使えるようになって、「どこまで教えるべきか」を改めて考え直している状況になっています。最近ではAIやプログラミング教育の重要性が議論されていますが、それも10年後には、それと異なる『学ぶべきもの』に変わるかもしれません」学んでいる間に社会が変わってしまう——今の私たち大人が子供の頃とは大きく異なる社会です。これを学ぶべき、というもの自体が古くなる、変わっていく。そんな変化の時代に、一体何を学べばいいのでしょうか?鎌倉市は一つの答えを出し、それを今回策定した教育大綱に盛り込んでいます。「教育大綱」って何?「教育大綱」——聞き慣れない言葉ですよね。これは企業で言うと「ビジョン」のようなもの。「大きくここに向かっていきましょう」という、自治体の教育の方向性を示す大きな目標です。細かい施策を考えるための拠り所となるものだそうです。「鎌倉市では、市長や教育委員、学校現場、保護者・地域の方々、そして子どもたちとも対話を重ねながら、この教育大綱を作成してきました。そして2025年4月から、5年ぶりに新しい教育大綱が施行されています」鎌倉市の教育ビジョン:「炭火のような学び」そして、この変化の激しい時代に向けて、鎌倉市が掲げた教育ビジョンがこちらです——「炭火」—— ちょっと不思議な言葉ですよね。これは教育委員の一人であった浄智寺のお坊さんからヒントをもらったそうです。「浄智寺では、前日から七輪で火を焚いておき、夜になると灰を被せて眠らせるそうなんです。灰を被せた状態の炭は、約500度で静かに燃え続けています。そして冬の寒い朝、修行僧が最初にする仕事は、その灰をどけて息を吹きかけること。すると炭は赤く燃え上がり、1000度まで温度が上がります」一晩中、灰の下でずっと燃え続けている——そのエピソードを聞いた時、「そのような学びをしてほしい」と思ったそうです。社会が変わっていく中で大事なのは、ずっと学び続けること。その思いが、この「炭火」という言葉に込められています。※炭火の詳細はこちらから!(鎌倉市教育委員会のnote)https://note.com/kamakuracity_edu/n/n70710c912b08炭火のような学び方はどうやって実現できる?では、どうやって「炭火のような学び」を実現するのでしょうか?「『炭火のように学びなさい』と言って、『これを勉強しろ』と押し付けたら、子どもたちは苦しくなってしまいますよね。それじゃあ、昔の詰め込み教育と同じです」ここで鎌倉市が大事にするのが、「学習者中心の学び」という考え方です。「行政や大人が子どもに何を勉強してほしいかではなく、子どもが何を学び、どう学びを掴み取っていくのかを大事にする。それが学習者中心の学びです」子供達一人ひとりも多様な個性を持つようになっているからこそ、その一人一人が自分に合う学びを掴み取っていけるようにする。従来の詰め込み型一辺倒な教育から大きく変化したビジョンです。それは現場ではどのように実践されているのでしょう?理科の授業で起きた「学び方を学ぶ」瞬間「4月の施行以来、教育長と私で、全26校の小中学校を回っています。先生方と『学習者中心の学び』について一緒に議論しているんです。トップダウンじゃなく、先生方と一緒に考えていく——そんな場を持っています」その現場訪問で見た、印象的な授業の様子を語ってくれました。わからないけど、解きたい中学校の理科の授業。「フレミング左手の法則」と「右ねじの法則」を組み合わせた、難しい問題を解いているところでした。授業の形式が興味深いんです。グループで議論して、わからなかったら友達に教えてもらってもいいし、タブレットで他のグループの答えを見てもいい——子どもたちが自分で学び方を選べるようにデザインされています。「ある男の子が『わからない』という顔をしていたんです。でも、その子は自分で『解きたい』と思っているようでした。」その子はどうしたか——まず友達の説明を聞いてみる。でもまだわからない。じゃあ別の友達に聞いてみよう。それでもまだわからない。じゃあタブレットで他のグループの答えを見てみよう。そんな風に自分で動いていたのです。「これなんです。『フレミングの法則』を理解できたということ以上に、『学び方を学んだ』瞬間だったんです。答えを見つけるために自分なりにアクションを取れているということ自体が、この子の学びにとってすごく大きな意味を持つんです」知識を得ることより、学び方を学ぶこと。それを生徒一人一人が模索できる授業の形式になっているのが特徴でした。漢字学習も「自分で選ぶ」時代別の事例では、授業の最後の時間が10分余ったので、先生が『漢字の勉強をしていいよ』と伝えると、子どもたちは、紙に書いたり、タブレットのAIアプリで練習したり、二人でまちがい漢字クイズを出し合ったりと、それぞれの学び方で勉強している例も教えてくれました。「AIアプリや互いにクイズを出し合うと、間違えやすいポイントを意識できるようになるんです。昔は『漢字を10回書きなさい』が当たり前でしたが、今は子どもたちが自分でどう勉強したら覚えられるかを考え、選択できるようになっています」多様な学びを支える環境整備が進行中!こうした多様な学びを支えるために、鎌倉市では環境整備にも力を入れています。Wi-Fiが校庭でも使える?市の負担でLTEまで!「校内だけでなく、体育館や校庭でもWi-Fiが使えるようにしています。これは全国でも約7%の自治体しか実現していない、非常に先進的な取り組みなんです」さらに、LTE環境も整えているため、校外学習でもタブレットが使えるそうです。タブレットの本体代は国の支援ですが、通信費は市が負担しているとのこと。「学習者中心の学びをやろうとすると、外に行くことがすごく増えるんです。話を聞いたその場でGoogleスライドに打ち込んで、帰ってきたらすぐに発表できる。すごくいいですよね」学校内のWifiや校外学習のためのLTEを通じて、どこでも学びができるようにしています。校内フリースペースも続々完成中!また、学びの環境整備は、技術面だけではありません。教室で学びづらい子のために多様なケアも大事です。その一つが、校内フリースペースの整備です。鎌倉市では、令和6年度から3カ年計画で、全小中学校に校内フリースペースを整備しています。今年で3分の2完了、来年には全校完了予定です。※IKEA HPより引用特徴的なのは、IKEAと連携協定を結んでデザインしてもらっていること。木の温もり、リラックスできる雰囲気、「教室っぽくない」温かみのある空間です。このフリースペースは、教育長がよく言う「止まり木」のような場所だと説明します。ずっといる場所ではない。でも、羽が疲れて飛べない時に、ちゃんと休めて、そこから羽ばたける場所——それが止まり木です。「一つの場所だけで全員を包摂するのは難しい。でも、いろんな場を用意していくことが大事なんです」「『インクルーシブっていうのは、一つの場所にみんなをぎゅっと入れることじゃない。社会全体で、子どもたち一人ひとりが学びにアクセスできる環境をどう作っていくかというシステムの話なんです』という高橋洋平教育長の議会答弁も紹介されました。市独自の教員採用も開始!さらにはなんと、子どもたち一人ひとりに寄り添える体制を充実させるために、教員採用まで工夫をしています。通常、教員採用は都道府県の仕事ですが、鎌倉市は条例を作って、独自に教員を採用しているそうです!https://www.enjapan.com/project/kamakura_2508/「今年は10人程度、これを3年続けて30人くらいの教員を雇う予定です。これで学校の指導体制がより充実し、子どもたち一人ひとりに寄り添える環境を整えます」「結局、成績がつくのでは?」市民の率直な疑問理念と実践例の説明が終わると、参加者からの質問の時間に。参加者から率直な質問が様々に出てきました。「いろんな学び方ができるのは良いんですけど、結局、評価されて成績がつくんですよね……?正しい答えがあって、それができたらいい成績、みたいになっていると、その答えに合わなくても工夫した子は認められないんでしょうか?」決まった答えに合う人だけが評価され、その答えではない人は認められないのか––多様性の教育についての大事な問いです。小原さんは落ち着いて答えてくれました。学校の役割とは「学校の役割は、社会の形成者となる基礎を作ること、そして人格を形成すること、この2つが教育基本法で定められています。社会に出た時に、簡単な計算や読解ができないと苦労してしまうので、最低限必要なことは学校がちゃんと教え、どこまで学べたかを評価する必要があります。」多様性の時代であっても、人として身に着けておいてほしい知識や技能があり、それは習熟しているかをちゃんと評価することが大事、ということでした。確かに、なんでも個性を評価していると、社会も、その子自身も苦労してしまいますね。その上で、学びにうまく到達できない子を排除するわけではない。小原さんは、「評価」と「包摂」は両立できると語ります。学びにうまく到達できない子のために「学びを評価をすることと、包摂をすることは、背反していないんです。学びの度合いを評価できる子は評価していけばいい。でも例えば、まだその土台に乗れていない子は、特別支援学級など、その子に合った環境で学ぶこともできます。そこでは評価体系も教育課程も全然違います」つまり、目指す学びにうまく到達できない子には別の環境を整備していこうとしているということです。実際、評価の仕方も変わってきているそうです。「テストをやって『90点でした、だからあなたA』『30点でした、だからC』みたいな評価は、だいぶ減ってきています。代わりに『観点別評価』というものになってきています」観点別評価とは、テストの点数だけでなく、思考力や表現力、学習に取り組む姿勢なども含めて、多角的に評価する方法で、それに移行しつつあるそうです。このように、社会で生きていくために必要な共通の学びは、ちゃんと評価して導く。そして同時に、その子に合った多様な学び方もちゃんと認めて、適切な環境で包摂していく。その両方を実現していくのが、多様性の時代の教育には大事なのかもしれません。「探究的な学びは受験に役立つの?」そしてまた別の大事な質問が出ました。「こういう探究的な学びをしていると、受験との関係はどうなるんですか?」保護者の不安はもっともです。小原さんは興味深いデータを紹介してくれました。「実は、探究的な学びの方が、長期的には学力も高まるというデータがあります」その根拠として挙げたのが、従来のドリル型教育の問題点です。「最近、『学力喪失』という本がベストセラーになったんですが、小学5年生に『1/2と1/3ではどっちが大きい?』と聞くと、50%が間違えるそうなんです。でも『1/2+1/3をやってみて』と言うと、結構できるんです」つまり計算ドリルを通して計算の手順は覚えているから足し算はできる。でも、1/2と1/3のどちらが大きいかという意味は理解できていない。これが従来型のドリル教育の限界です。「だから、ピザを半分に切った1つが1/2、3つに切った1つが1/3——実際に見比べたら、どっちが大きいか分かるよね、と。こういうことを体験的にみんなで一緒に考える活動をやった方が、自分の中で概念を習得できます。その方がその知識は続いていくんです」だから、受験を見据えても、実は探究的な学びの方がいい、と。大学受験のあり方もその方向に変わってきているそうです。「今は全大学の定員の50%は推薦です。東京大学でも30%くらいは推薦。推薦で入った学生の方が、入学後の成績が良いというデータもあります」推薦で入る子は、探究的に学んできて、「ここで何を学ぼうか」という視点で大学を選んでいる。だから入ってからも学び続けるモチベーションが高いんだそうです。探究的な学びが、本人にも社会的にも、必要とされていることを教えてくれました。教育は地域全体で作るもの --鎌倉に暮らす皆さんへのお願い--会の終わりに、小原さんは参加者に改めて想いを伝えてくれました。「今回話した『学習者中心の学び』は、まだまだ世界的にも定義付けられていない概念です。だからこそ、先生方や保護者など、多様な皆さんと一緒に考えていくことが大切だと考えています」だからこそ、こんなことをお願いしていました。1. 周りの人に伝えてほしい——こんな変化が教育現場で起きていることを2. 対話の場に気軽に参加してほしい——いろんな教育の関係者で考える場を作っていきたい3. クラウドファンディングへのご協力——シェアや拡散でもありがたい保護者、地域住民、企業、NPO——みんなで一緒に作っていくために、鎌倉市はスクールコラボファンドという取り組みをしています。https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/kyoplan/kamakura-scf.htmlこれはガバメントクラウドファンディングという仕組みで寄付を集めて、子どもたちと先生が「これは外部の人を呼んだ方が良い」と声をかけてきたら、そのための費用を出すという仕組みです。ふるさと納税の対象にもなります。地域全体で多様な人たちが教育を支えるためのユニークな取り組みです。多様な人たちでの継続的な対話が、地域の豊かな教育を作る。教育長と政策担当の彼が全26校を回って先生方と対話しているのも、トップダウンじゃなく、一緒に考えていくため。今日のような市民との対話の場も、教育を一緒に作っていく大切なプロセスです。答えは様々にあり、そしてまた変わっていく時代だからこそ、私たちも隣の人と一緒に考えて答えを見つけていくことが大事——子供達が教室で練習している「学び方を学ぶ」姿勢は、大人たちもそうあるべきなのかもしれません。今後もまた開きたいと話していますので、ご興味のある方はいつでも教えてください!---📚 スクールコラボファンドの詳細はこちら!https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/kyoplan/kamakura-scf.html✏️ 教育大綱の詳細はこちら鎌倉市教育委員会のnoteで、詳しく解説されていますhttps://note.com/kamakuracity_edu