SNSのアカウント「鎌倉1億円村」(現在は「カマパパプロジェクト」に変更)で紹介されている場所SNSのアカウント「鎌倉1億円村」の投稿が、思わぬ形で注目を集めました。このアカウントは「“鎌倉育ちと異国の仲間たち“鎌倉の北部に“1億円村”を開拓中」とうたい、InstagramやTikTokで複数の動画を発信していました。北鎌倉は、観光地として人気が高い一方で静かな住宅街が広がり、自然保全や景観への配慮が重視される地域です。こうした背景もあって、SNS上には地元住民を名乗るユーザーから賛否さまざまなコメントが寄せられ、「外国人が集住するのか」「大規模開発が始まるのでは」といった憶測も飛び交いました。しかし、取材を進めると、こうした受け止められ方と実際の状況には隔たりがあることが見えてきました。現在、同アカウントは名前を「カマパパプロジェクト」へと変更しています。このアカウントを運営する方に直接お会いし、発信の経緯や意図についてお聞きしました。場所はどこ? 現地に行って見えた“実際の姿”道路から見た様子北鎌倉駅から20分ほど歩き、静かな住宅街を進んでいくと、戸建てや低層マンションが立ち並ぶエリアの一角にふいに視界が開ける場所があります。陽の光がよく入る傾斜地の土地――ここが、SNSアカウント「鎌倉1億円村」で登場している場所です。傾斜をゆっくり上りながら敷地の奥へ進むと、行き止まりにはブロック塀と石の塀があり、隣接する住居やアパートとの境界を形づくっています。その境を背に、30本ほどの竹林が風に揺れていました。敷地の中央には藤棚が設置されており、その下をくぐるようにしてまっすぐ奥へ伸びる通路がつくられています。通路の左右にはベンチやブランコが置かれ、地面は土のままの部分もあれば、砂利やウッドチップが敷かれている場所もありました。さらに、野菜を植えた小さな畑の区画や、大きなガーデニング鉢、盆栽が並ぶスペースも点在。敷地は空に向かって広く開けていて、傾斜地を抜ける風がよく通ります。「鎌倉1億円村」というアカウント名だけを見ると、建物がいくつも並ぶ“村”のような光景を想像する方もいるかもしれません。ですが、実際に広がっていたのは、誰かが手を入れ始めたばかりの“大きな庭”といった印象の場所でした。北鎌倉育ちの地元民が運営。経緯と背景現在、土地の所有者から借りるかたちでこの場所を管理しているのは、鎌倉市内に住む30代の男性、鈴木さん。鈴木さんは北鎌倉で生まれ育ち、高校卒業までこの地域で過ごしました。その後役者として活動する時期などを経て、都内でバーを開業。約10年間経営に携わり、経験を積んだといいます。2年ほど前に地元である鎌倉へ戻り、長いあいだ手つかずになっていたこの地の管理を始めました。2025年4月ごろから草刈りや竹の伐採を進め、徐々に現在のような形に整えてきたといいます。「元は草が生い茂った空き地で、竹林もかなり伸びていました」と鈴木さんは話します。鈴木さんには小さなお子さんもおり、「最初は、個人で使える場所をつくろうと思って整備を始めた」とのこと。しかし、作業を進めるうちに、北鎌倉の住宅街には気軽に立ち寄れる店や施設が少ないことに気づき「せっかくなら、地域の人や子どもたちが集まれる場所をつくった方が良いのではないか」と考えるように。その思いを形にするために始めたのが、SNSアカウント「鎌倉1億円村」での発信でした。SNSで生まれた“誤解”はどこから? 取材の中で、鈴木さんは今回のSNS投稿を機に上がっている疑問について説明してくれました。まず、「異国の仲間」についてです。こちらは鈴木さんが経営する会社で雇用している外国籍従業員を指しているとのこと。取材に伺った際も、現地には数人の外国人社員がいました。出身地はインド、パキスタン、バングラデシュなどさまざまで、来日時期も異なりますが、いずれも2〜4年ほど日本で暮らしているとのことでした。憶測の一つとして上がっていた「外国人が集住する場をつくる」ような計画は一切ないといいます。また、投稿で触れられたさまざまな構想については、「建築許可を得ているのか」といったコメントも寄せられていました。これについて、鈴木さんは「レストランやサウナをつくることが決まっているわけではなく、地域の人の知恵を借りるために可能性として示したものです」と話します。登記情報によると、この辺りの土地は用途区分が「畑」や「山林」となっており、すぐに建物を新設できるわけではありません。実際にレストランなどをつくる場合は、用途変更や許可申請などの手続きが必要になり、時間を要するのが一般的です。“1億円村”の実像藤棚に合わせて階段がつくられていましたでは、「鎌倉1億円村」とは、一体どのようなものなのでしょうか。鈴木さんは、“地域に開かれた、季節ごとの体験ができるような場所”という方向性を思い描いていると話します。SNSの投稿では「レストラン、体験施設、バーベキューをつくりたい」と紹介されていましたが、実際に鈴木さんが考えている案はより幅広いものです。「季節ごとの収穫体験やアート体験、水耕栽培体験や盆栽のワークショップなどを考えています。4人ほどで入れる小さなサウナを設けることも検討しています」とアイデアを語ります。ただし、繰り返しになりますがこれらはいずれも構想の段階。鈴木さん自身、「自分だけでは知識や技術が足りず、実現に向けて協力者が必要だ」と感じ、SNSでの発信を始めたといいます。発信にあたり参考にしたというのが、同じく地域づくりをテーマにしたSNSアカウント「沖縄1億円村」です。こちらは沖縄県北部で県内出身の26歳という若者が“村づくり”の過程を発信しているもので、フォロワーからコメントで意見を募り、ロゴデザインを投票で決めたり、レストランの開業につなげたりと、共創型の取り組みが特徴的です。「沖縄の取り組みは、アイデアを出してくれる人が自然と集まって、一緒に形にしていく流れがいいなと思った」と鈴木さん。自身のやりたい方向性とも重なりを感じ、「鎌倉1億円村」というアカウント名もそこから着想したといいます。「1億円」という金額については、「市場価値を生む場所にしていきたいという思いから名付けた」とする一方で、「数字そのものに強いこだわりがあるわけではありません」とも話します。あくまで、“地域に価値を生む”という意味を込めた比喩的な表現だったとのことです。今後の方針は?「1億円村」はこれからどうなるのか「1億円の市場をつくりたい、というよりも、やりたいのはさまざまな企画や体験ができて、ゆっくり過ごせる場所をつくることなんです。『異国の仲間たち』というのは従業員のこと。言葉の選び方によって勘違いを招いてしまった点は申し訳なく思っています」鈴木さんはそう語ります。11月17日には、アカウント名を「カマパパプロジェクト」へ変更。一児の父による等身大の発信であることが分かるかたちに変わっています。現在は地元の町内会長らと話し合いを重ね、地域に向けた説明会の準備を進めている最中だといいます。「パンフレットや資料を作成している段階で、地域の方と対話しながら進めていくことが大切だと考えています」とも話していました。--------------------------------------〈取材後記〉“誰が・何のために・どこまで決まっているのか”が見えないまま、象徴的な言葉だけが先に広がる発信は、避けがたい不安を生みます。実際に現地を歩いてみると、建物が立つ気配はなく、広い庭のような開けた土地が広がっているだけでした。ところがSNSでは、「村」「異国の仲間」「1億円」といった強いワードが切り取られ、実態とは異なる“物語”が独り歩きしました。情報が曖昧な段階で発信が行われると、受け手の想像力が必要以上に膨らみ、「自分たちの暮らしが変わってしまうのでは」という不安につながりやすくなります。とくに地域の文脈では近隣への説明が先に行われることが多く、外向けの発信は地域の理解を得てから進むのが一般的です。今回はそのタイミングのズレも、結果的に不安が大きくなる背景となった印象があります。とりわけ今の鎌倉では、オーバーツーリズムの影響で地域の生活が圧迫されていることもあり、「外国人」というワードへの敏感さが増しています。こうした社会背景も、今回の憶測や炎上の広がりに影響したように思います。SNSでの発信は自由である一方、地域社会の文脈とは必ずしも噛み合いません。今回の出来事は、発信者に悪意があったわけではないものの、「順番」と「情報設計」を誤ると、小さなズレが大きな不安に変わる——そんなSNS時代ならではのリスクを象徴しているように感じました。--------------------------------------執筆土屋咲花さん元々は新聞記者で、今は鎌倉にお住まいで、ビジネスや社会活動などの取材をされていらっしゃいます。鎌倉周辺でこれぞ!というものがあればぜひお伝えください!